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【第5章】説明を組み立てる

計画や意志決定(特に「個人的、社会的」という言葉でひとくくりにできるような)、情動の処理、存在しない対象の適切なイメージの保持、こういった本質的に異なる役割が、なぜ脳のある限られた領域で合流する必要があるのか?これらに共通することとは何か?

読書メモ「デカルトの誤り」 第一部 - メモ帳

 暫定的な答え

①ある社会的な環境の中で提起される複雑で結果が定かでないような個人的問題に関して決断までいたるには、広い基盤にねざした知識(物、人、外界の状況など)と、その知識の上で機能する推論の戦略の双方が必要とされる。しかし個人的、社会的決断は生存という問題から切り離せないものなので、その知識には有機体全体の調節に関する事実とメカニズムも含まれる。また推論の戦略は目標、行動オプション、将来結果の予測、様々な時間スケールでの目標実現のための計画を中心に展開している。

②情動と感情のプロセスは生体調節のための神経機構の要の部分である。生体調節の中核は恒常性の制御、欲求、本能で構成されている為だ。

③脳のデザイン故に、広範な基盤に根ざした必要不可欠な知識は、脳の一領域にではなく、互いにかなり離れた複数の脳領域に位置する多数のシステムに依存している。したがってそのような知識の大部分は、脳の一部分におけるイメージという形でではなく、多数の部位におけるイメージという形で想起される。我々は、すべてのことがたった一つの解剖学的劇場で一体になるような錯覚を持っているが、様々な相対的同時性が、ばらばらな心の部分を一つにまとめあげているのだろう。

④知識は並列的な多数のシステムの部位からばらばらに部分かされた形でしか想起されないので、それらをもとに推論の戦略を展開するには、無数の事実に関する表象が、かなり長い時間(最低でも数秒間)、広範な並列的表示の中で動的に保たれている必要がある。

 

・有機体、身体、脳について

・有機体の状態

・身体と脳の相互作用 有機体の内側

・行動と心について

有機体が複雑さを獲得するにつれ、「脳に起因する」活動はますます中間的なプロセスを必要とするようになった。脳は刺激と反応の間に介在する回路の中に多くの中間的段階を持ち得る。脳が心を持つには、内的にイメージを提示し、「思考」と呼ばれるプロセスの中でそれらのイメージを順序よく配列する能力を必要とする。

心を持つ、とは、イメージになり得る、思考と呼ばれるプロセスの中で操作し得る、そして、将来を予測させ、それに従って計画させ、つぎなる動作を選択させることで最終的に行動に影響を及ぼし得る、そんな神経的表象を有機体が形成することを意味する。

 

・有機体と環境の相互作用 外なる世界を取り込む

・部分化された活動から生まれる統合された心

 脳がどのように機能しているかを考えるのが好きな人間が共通して持っている誤った直観の一つに、心の中で経験される感覚処理の多くの要素(景色や音、味や匂い、肌ざわり、そして形)は、すべてたった一つの脳構造の中で「起きる」というのがある。4DXのような「デカルト劇場」は脳内に存在しない。音、動き、形、色などを同時に経験するときに活動するすべての感覚様相からの表象を同時に処理するような領域は人間の脳にはない。

確かに、多くの異なった初期感覚領域からの信号が収束する可能性がある領域はいくつかある。そして、そうした収束域のうちのいくつかは、様々な種類の多様相の信号を実際に受け取っている。しかしそういった高次の収束域の損傷は、学習障害のような検出可能なほかの神経心理学的帰結をもたらすものの、それが両半球で起きても全く「心」の統合を妨げることはない。

心の統合とは、分離している様々な脳領域での神経活動のタイミングを同期させていることで生まれている。この時間の結合には、意味ある結合がなされて推論と意思決定が起きるのに必要な時間だけ、様々な部位における集中的な活動を維持しなければならない。すなわち、神経活動のタイミングの同期には、強力で効果的な注意とワーキングメモリが必要であるということだ。

 

・現在のイメージ、過去のイメージ、将来のイメージ

五感により得て形成されたイメージは「知覚的イメージ」、過去の思い出を呼び起こすときに生じるイメージは、「本物の過去から想起されたイメージ」として知られる。想起されたイメージを使うことで、虚構の記憶を強化し、有り得る将来の記憶、「将来の計画から想起されたイメージ」を構成することができる。これらのイメージは、我々の自己にとって現実であり、そして他個体もまた類似のイメージを形成する。それに基づく世界の概念を共有している。つまり、環境の本質的様相について様々な人間がつくりあげる構築物〈イメージ〉に、驚くべき整合性がある。

では、我々はどのようにしてこうした素晴らしい構築物を生み出すようになっているのだろうか?明らかにそれは知覚、記憶、推論の複雑な神経的機構によってつくりだされている。

我々が経験するイメージと最も密接に関係する神経活動は初期感覚皮質で起きていて、他の部位ではない。知覚によるものであれ記憶によるものであれ記憶の想起によるものであれ、初期感覚皮質でのこの活動は、数多くの大脳皮質部位と大脳基底核や脳幹などにある数多くの皮質下核でいわば裏方的に作用している複雑なプロセスの産物である。

 

・イメージの保存と想起におけるイメージの形成

イギリスの心理学者 フレデリック・バートレット「記憶は本質的に再構築的である」

イメージは、物、出来事、言葉、文などファクシミリ画像として保存されている訳ではない。では脳はどのようにして以前に経験したイメージの近似物を呼び起こしているのか?

心的イメージは一瞬の構築物、かつての経験したパターンの複製の試みである。明確に想起される心的イメージは、主に、かつて知覚的表象に伴う神経発火パターンが生じたのと同じ初期感覚皮質に、同じ発火パターンを一時的、同時的に活性化することから生まれるのではないだろうか。

こうした発火パターンは、脳の別のところにある後天的に獲得された傾性的な(刺激源の方向に関係なく、一定の方向に屈曲する性質;植物の性質を表す用語:後にでてくる傾性的表象とは、イメージを再現する際に初期感覚皮質に発火パターンを活性化する為の元となるもの)神経的パターンの命令で瞬間的に構築されると、筆者は考える。 

想起可能なイメージと関連するニューロン発火傾性は、「収束域(後頭葉、側頭葉、頭頂葉前頭葉における高次連合皮質に広く存在、また大脳基底核辺縁系にもある)」と呼ばれるニューロン集合体において生じる。

 

・知識は傾性的表象の中に統合されている

傾性的表象は我々の知識の全宝庫である。そこには生得的な知識と経験によって獲得された後天的知識の双方がある。

生得的な知識の基盤:視床下部、脳幹、辺縁系における傾性的表象にある。例えば運動が起きる時の基盤となる。

後天的知識の基盤:高次皮質中にある傾性的表象と、皮質レベルの真下にある多数の灰白質の新計画に存在。例えば想起におけるイメージの出現は、連合皮質のような部位にある傾性的表象の活性化が引き金となることで、初期感覚皮質にある一時的なパターンが再構築されることで起きる。

傾性的表象の活性化は様々な結果をもたらす。(他の傾性的表象の活性化など)

傾性的表象は連続的な修正を受ける(新たな知識の獲得、記憶の修正)

 

・思考は主としてイメージでできている

・神経の発達に関して

脳のシステムと回路、ならびにそれらの働きは、ニューロン間の結合パターンと、それらの結合を形成しているシナプスの強さとに依存している。しかし我々の脳の中のその結合パターンとシナプスの強さはどのように、そしていつセットされるのだろうか?それらは脳のすべてのシステムに対して同時にセットされるのだろうか?一度セットされたら永久にそのままなのだろうか?⇒

①ヒトのゲノム(我々の染色体中の遺伝子の総合計)は脳の全構造を規定していない。分かっている限りでは、多くの構造的特性が遺伝子によって決定されてはいるが、これまたかなり多くのことが有機体それ自体の活動によって決定されており、そうやって有機体は成長し、一生絶え間なく変化していく。

②ゲノムは、人間の脳の進化的に古い部分(脳幹、視床下部、前脳基底部、扁桃体、帯状領域など)のいくつかの重要なシステムや回路の正確なあるいはほぼ正確な構造を組み上げるように作用している。脳のこれらの部位の基本的な役割は、心や理性に頼ることなく、命にかかわる基本的なプロセスを調節することである。これらの回路におけるニューロンの生得的な活動パターンがイメージを生み出すことはない(但し、それらの活動の結果はイメージになりえる)。これらの生得的な回路は先述の恒常性の機構調節以外にももう一つ重要な役割があり、というのも生得的な回路は身体の調節に関係しているだけでなく、進化的に新しい脳構造の発達と成熟した活動にも関係している。

③遺伝子が生得的な回路に定める特性と同等のものが、生後かなりたってから、自然環境や人間との相互作用の中、脳のそれ以外の部分にもたらされる。進化的に新しい脳部位に関する限り、遺伝子はシステムや回路の正確な配列を定めるのではなく、大まかにそれを定めているのだ。生体調節にかかわっている生得的で正確な回路の作用によって、補足され、制限されながら、環境の作用の下で生じる。

 

何故生得的な回路が、我々の後天的な経験の表象に携わっている新しい可塑的な回路の形成に干渉しなければならないのか?

∴経験の記録と経験に対する反応の記録は、もしそれらが適応的であるべきなら、生存を最優先に考える有機体の一連の基本的な好みにより評価され、方向づけされなければならないため。

この評価と方向づけはその有機体の継続性にとって決定的に重要だから、遺伝子は、経験によって修正し得る事実上すべての回路に生得的な回路が強力に作用するように規定しているように思われる。

モジュレータ・ニューロン;脳幹と前脳基底部にあり、いつも有機体の相互作用に影響されている。それらの作用は以下の通り

①生得的な調節回路は有機体の生存という仕事に関わっており、またそれゆえに、進化的に新しい脳部位で起きていることに内々に通じている。

②状況の良しあしがそれらの回路に定期的に信号で伝えられる。

③良しあしに対するそれらの回路の生得的反応は、脳の残りの部分をどのように方向付けるかにあらわれる。その反応が最も効果的に生存を支えられる方法だ。

 

我々の脳の心も、、生まれたとき完全に白紙状態ではない。遺伝子の影は不気味に迫るが、それがすべてではない。遺伝子は、一方では正確な構造を有する脳要素に対して、他方では正確な構造があとで決定される脳構造に対して、準備している。しかしあとで決定される構造はもっぱらつぎの三つの要素の下で成し遂げられる。①正確な構造の脳要素、②個的な活動と環境、③システムの際立った複雑さから生じる自己組織化作用

 

脳は、むら気な人間のように発火への忠誠心が変わる回路と、変化に対して必ずしも鈍感ではないが抵抗的な回路とのバランスを必要としている。

 

【第6章】生体調節と生存