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読書メモ「デカルトの誤り」 第一部

半年以上前に買った「デカルトの誤り」という本が全く読み進められていなかった。自分の理解力の乏しさに辟易する。ただ読むだけだと全く内容が整理できそうにもないので、読書メモでも付けようと思う。

 

■序文

1.

「合理的な決断は冷静な頭から生まれる、情動と理性は水と油のように混じり合わない」「理性のメカニズムは心という特別な領域に存在し、そこは情動が割り込めないところである」

このデカルト的な考えは間違えで、人間の理性は一つの脳中枢に依存するのではなく、前頭前皮質から視床下部や脳幹まで、「上位(推論、意思決定、社会的行動や創造性など)の」脳領域と「下位(情動、感情、生体調節)の」脳領域が相互作用して理性を産みだしている。

 

2.

感情の本質は、ある対象と結びついてる捉えがたいメンタル・クオリティといったものではなく、身体の構造と状態、身体風景の一部の、一瞬の光景である。人間の特質と環境との適合又は不適合に対するセンサーが感情でである。我々はそれを通して、生物学的な活動の只中にある有機体の姿を垣間見ることができる。

 

3.

心は一つの統合された有機体の中に、そしてその有機体の為に存在している。

・人間の脳と身体は分かつことのできない一個の有機体を構成し、それは、相互に作用し合う生物化学的な調節回路と神経的な調節回路(内分泌、免疫、自律神経的要素を含む)によって統合されている。

・この有機体は、一個の総体として環境を相互作用している。

・我々が心と呼ぶ生理学的作用は、その構造的・機能的総体に由来するものであり、脳のみに由来するものではない。心的現象は、環境の中で相互作用している有機体という文脈においてのみ、完全に理解可能になる。

 

 

【第一章】

・フィアネス・ゲージ

 

・ゲージはもはやゲージでなかった

爆発事故により、ゲージの頭蓋骨に鉄棒が貫通したが、奇跡的に生存した。

彼は事故後、体力を取り戻し、触れること、聴くこと、見ること(左目の視力は失われたが右目は完全だった)ができ、手足や舌のしびれもなかった。しっかり歩き、両手を器用に使い、話しぶりや言葉にこれといった問題は見当たらなかった。

しかし、彼を診続けた医師は詳述している。

「知的能力と動物的傾向との平衡またはバランスがが破壊されている」

ゲージは事故以前の「穏健な傾向」や「かなりエネルギッシュな性格」から「気まぐれで、無礼で、同僚たちにほとんど敬意を払わず、仕事も中途半端に投げ出してしまう」という全く際立った対照を成した新たな人格的特徴を有していた。

 

・なぜフィアネスゲージか?

ゲージの話が暗示する事実

「人間の脳にはとりわけ推論に向けられたシステムが、それも特に個人的かつ社会的次元の推論に向けられたシステムがある」

脳損傷の結果、たとえ基本的な知能も言語も無傷であっても、以前に身につけた社会的慣習や倫理的ルールを守らなくなるかもしれなかった。かつてのゲージは「個人的、社会的責任感があり、それは現場監督という仕事での出世に反映されていたし、それに仕事の質に関心を向け、雇い主や同僚の尊敬を得ていた」が、事故後の彼は「社会的慣習を尊重しなかったし、言葉の広い意味での倫理が破られていて、彼がする決断には自分自身の最善の利益が考慮されていなかった」という。

人格が変質していながら、注意、知覚、記憶、言語、知性といったいくつかの心の装置は完全無欠であるという不一致。彼は人格障害が、完全な認知作用や行動から解離していた。

脳損傷では損傷の形態が重要になる。何かを頭部で激しく打つと、たとえ頭蓋骨が折れず、また脳に何も突き刺さらなかったとしても、長時間大きな意識障害が起こり得る。加わった力が脳の機能を根本的にダメにしてしまうからだ。ところが貫通性損傷の場合はそうはならない。力は分散せず、貫通孔周囲の狭い範囲に集中するからだ。結果として、脳組織が実際に破壊されたところにだけ機能障害がしょうじ、ほかの部分の脳機能は保持される。

鉄棒が作った彼の傷は、運動と言語の「中枢」には及んでおらず、前頭前皮質がダメージを受けていた。

 

・提起された問題

ゲージの人格変化が脳の特定部位の限定的損傷によって引き起こされたのは間違いない。社会的慣習を重んじ、倫理的に行動し、自分自身の生存と発展に有利な意思決定をするには、規則と戦略の知識と脳の特定のシステムの完全性が要求される。以下の問題が提起される。

①ゲージの損傷部位はどこか?前頭葉だとしたら、その領域のどこなのか?

②ゲージの人格障害の本質はどこにあったのか?孔がもし前頭葉の彼が傷を負った別の部位にあったとしても、彼は同じように人格を破壊されるのか?もし脳の特定のシステムがあったとしてそれらは何で出来ているのか?

③ゲージが意思決定できなかったという事実の背後にどのようなメカニズムがあったか?彼は推論のどの段階の働きが失われていたのか?

④ゲージは善悪が分かっていたのか?彼の意思決定は押し付けられたものであり、不可避だったのか?

 

 

 


【第二章】

・基本的問題

ゲージの頭蓋骨から推察される鉄棒の概略の飛跡

「最初の脳損傷部位は多分、アイ・ソケットのすぐ上の眼窩前頭部であり、鉄棒は左前頭葉の内表面の一部を、そして多分右前頭葉の内表面の一部を破壊したと思われる。最後に鉄棒が外に飛び出すとき、間違いなく左半球の前頭葉背側領域に、そして多分右半球の前頭葉背側領域にもダメージを与えた。」

しかし、理想化された「標準的な」脳の中で鉄棒が取り得る飛跡にはある程度幅があるし、またその脳がゲージの脳とどれほど似ているかもわかりようがない。(神経解剖学で脳の各要素間の位相幾何学的関係はおそろしいほどよく分かっているが、それでも局所解剖学的個人差はかなりあり、我々の脳一つ一つはかなりの変化に富んでいる。ex.顔の同一性と差異;顔には不変の数の要素と不変の空間配置があるが、不変の部品の大きさ、形、位置、そして相対的配置が解剖学的に僅かに違う)

 

・解明

現代神経解剖学と神経画像化技術を駆使して得られた答え、「ダメージは両半球の前頭前皮質の腹側面と内側面に及んでいて、前頭前皮質の外側面には及んでいなかった」

意思決定にとって極めて重要な部位の一部であるとされる「前頭前野腹内側部」が損傷を受けていた。(因みに前頭前皮質の外側面の皮質がダメージを受けると、注意力を調節したり、計算を行ったり、刺激から刺激へ適切に移行する能力が阻害される)

フィアネス・ゲージの「将来の計画を立てる能力、それまで学習した社会的規則に従って行動する能力、自己の生存に最も有利な行動を決定するぬ力」を衰退させたのは、前頭前皮質における選択的損傷であった。

 

 

 

 【第三章】現代のフィアネス・ゲージ

エリオット―髄膜腫の摘出術により、前頭葉組織(腫瘍により圧迫されダメージを受けていた範囲)も除去された患者―、誰が見てもインテリで、技術を身に付け、身体壮健だった男に襲いかかった悲劇は、フィアネス・ゲージ同様退廃的人格への変化だった。

彼の身体的能力は元のままで、心的能力もそのほとんどが影響を受けていなかったが、決断するための能力は著しく損なわれていたし、数時間先の効果的な計画を立てる能力さえ損なわれていた。

エリオットはゲージ同様、前頭前皮質腹内側部が格別大きな損傷を受けていて、彼の場合は左より右で大きかった。

 

・新しい心

エリオットが著者が関わる以前に、別の研究所で、彼は標準的な知能検査でいっさい障害の兆候を示さず、つまり彼は器質的な脳損傷による症状はでていないと診断された。標準的な心理学的ならびに神経学的検査で優れた知性が明らかになった。知覚能力、過去の記憶、短期記憶、新しい学習、言語、計算能力、更に注意やワーキングメモリの能力までもが、損なわれていない、という検査結果が出た。

前頭葉の機能障害を検出することで知られる既存の検査では、エリオットの能力の衰えを断定することはできなかった。「ミネソタ多面人格目録」という基本的な人格検査でも正常だった。

以上より、エリオットは正常な知性を持っていながら適切に決断することができない、特にそれが個人的あるいは社会的な問題と関わっているとき決断できない人物であることがはっきりした。(物体や空間や数や言葉が関係する領域における推論方法や施工方法は、個人的、社会的領域におけるそれらとは違うのか、という新たな疑問)

 

・難問に取り組む

彼はその退廃的人格から、仕事はクビになり妻とは別れ、莫大な借金を負い友人には去られるなどの身に罹る不幸を、超然とした態度、まるで無感情で無関係な傍観者として状況を描写してみせた。

心理生理学的実験により、無感情という彼の病像が明らかとなった。以前であれば彼に強い感情を喚起したような話題が、もはやいかなる反応も引き起こさない。

「エリオットの意思決定障害には、情動と感情の衰退がなにがしか関わっているのではないか?」

 

・推論と決断

机上レベルで行われる推論と決断の能力は、エリオットは何ら損なわれていなかった。エリオットは実験で提示された様々な社会的状況に対して適切な反応オプションを生み出し、また特的のオプションの結果を自発的に考える正常な能力を有していた。

では、実生活で彼がみせる不完全な意思決定はどう説明したらいいのか。

現実の生活と実験での課題の相違点などが原因とも考えられるが、研究の結果はエリオットの意思決定障害は、社会的知識の欠如によるものでも、その種の知識に十分にアクセスできないからでも、推論の基本的な障害によるものでも、個人的・社会的領域での意識決定に必要な、事実についての知識の処理と関係する注意やワーキングメモリの基本的障害によるものでもないことを強く示唆していた。

エリオットの意思決定障害は推論の後半の段階、すなわち選択形成あるいは反応的選択が起きる点、ないしはその近傍ではじまっているようであった。

「情動の不調により、エリオットは意思決定におけるオプションのそれぞれに異なった価値を見いだせなくなったのでは?」

 

 

 

 

 【第四章】冷めた心に

ある条件下では情動により推論の働きが妨げられるのは確かだが、情動の衰退は、烏合りな行動に対する、同じくらい重要な原因になっている可能性がある。

エリオットにみられたのと同じ種類の前頭前野損傷を有する患者には「意思決定障害と平坦な情動と感情」という組み合わせが見られた。

しかし、この理性の障害と感情の障害の顕著な同時発生は、必ずしも前頭前野を損傷した後にだけ起こるわけではない。

 

前頭前野損傷の他の症例からの証拠

歴史的文献と研究室から得られた証拠から、以下のような結論を暫定。

①もし損傷部に腹内側部が含まれていれば、両半球の前頭前皮質の損傷は常に推論と意思決定の障害ならびに情動と感情の障害と関係している。

②推論と意思決定の障害及び情動と感情の障害が、おおむね完全な他の神経心理学的特徴に比して顕著であれば、ダメージは腹内側部っでもっとも大きい。さらに、この障害により個人的、社会的領域がもっとも影響を受ける。

前頭前野に損傷があって、背側部と外側部の損傷の程度が、腹内側部以上ではないにしてもそれと同程度である場合には、推論と意思決定の障害はもはや個人的、社会的領域に留まらない。そのような障害には、情動・感情の障害のみならず、物や言葉や数を使った検査によって見出される注意やワーキングメモリの障害も伴われる。

「推論と意思決定の障害と、情動と感情の障害」の組み合わせは、先述の脳領域以外の部位損傷で、症状として現れることはあるのか?

 

 

前頭前皮質以外の損傷からの証拠

ある特定のパターンの脳損傷に起因する左半身麻痺が病態失認を伴うが、それとは鏡像的なパターンの脳損傷に起因する右半身麻痺は病態失認を伴わない。また病態失認と結びついている脳損傷パターンとは異なるパターンで起きた左半身麻痺は、無自覚性を伴わない。故に、脳の特定部位で、ある特定の認識機能の喪失が生じる。

病態失認は四肢の麻痺に無頓着なのに加え、自分が置かれている全体状況に対する関心のなさ、表に出す情動のなさ、問えばわかる感情のなさ、を呈している。将来に対する計画が、個人的、社会的意思決定が、深刻に阻害されているのだ。

病態失認患者は右半球大脳皮質の体性感覚野(接触、温度、痛みの外感覚と、関節位置、内蔵状態、痛みの内感覚の双方を司る)を損傷している。「体性感覚野内の島皮質、細胞構造上の3野、1野、2野、ならびにS2野の、協力的な相互作用を通して、脳が利用できる現在の身体状況のもっとも包括的、統合的な地図を生み出しているのではないか?」

扁桃体を限定的に損傷した患者もまた、情動表出がひどく損なわれており、自身の置かれている困難な状況に対しほとんど関心を示さない

 

・構造と機能に関する見解

①前頭前腹内側皮質という人間的な領域があって、そこを損傷すると、誰もが気づきそうなほど純粋な形で、推論と意志決定および情動と感情の双方が、それも特に個人的、社会的領域において、冒される。

②右半球には体性感覚皮質複合体という人間的な脳領域があって、そこを損傷すると、やはり推論と意志決定および情動と感情が冒され、されあに基本的な身体信号のプロセスが混乱をきたす。

前頭前皮質には、腹内側部の他にも、そこを損傷するとやはり推論と意志決定が冒される領域がある。ただし冒され方は異なる。障害が非常に広い範囲に及び、あらゆる領域の知的作用が冒されるか、障害がより選択的で、個人的、社会的領域における作用より、言語、数、物、空間に関する作用が冒されるかの、いずれか。

 

・源泉

ミセスTという症例

 脳卒中により両半球の前頭葉の背側と内側領域に広範なダメージを受けた彼女は、突然動かなくなり、物を言わなくなった。以後彼女はよく、目は開いているものの無表情のままベッドで横になっていた。体の動きも顔と同様であり、四肢は休止状態。問いかけにも無反応だった。彼女はこうした無言症と無動症から徐々に抜け出して質問に答え始めたが、曰く「話すことが本当に何もなかった。」

すなわち彼女の心は非可動性の状態にあり、顔と四肢はその活動の欠如を適切に反映した結果だった。イメージや運動を生み出す欲求の、そしてそれらを強化する手段の、全面的障害があったのだ。

辺縁系の一部である前帯状皮質を損傷すると、運動、情動、注意の障害をもたらすだけでなく、活動や思考プロセスの実質的な機能停止を引き起こし、その結果、理性はもはや役立たなくなる。

 

・動物の研究からの証拠

ロボトミー手術に関連する話題

両側性の前頭前野損傷は正常な情動の表出を妨げる。また、それにより社会的行動に異常をきたす。

両半球の前頭前野を切除(腹側部と背側部を含むが、帯状領域は入っていない)されたサルたちは、身体的外観は変化していないという事実にも関わらず、サルの群れの中で正常な社会的関係を維持していない。脳に手を加えられたサルは、毛づくろい行動がひどく減り、また他のサルたちとの感情的相互作用、表情、発声も減る。母性行動障害や性的無関心が生じる。しかし前頭前野を損傷していないサルであれば、たとえ麻痺のようなひどい身体的障害を持つサルでも、仲間の援助を求めたり受け入れたりすることができる。

ちなみに一連の実験は、学習と記憶の理解が目的であり、前頭前野損傷のサルたちは、ワーキングメモリの機能が破壊されていることがわかった。存在しない対象の適切なイメージを、ある時間留めることができないのだ。

 

・結論

計画や意志決定(特に「個人的、社会的」という言葉でひとくくりにできるような)、情動の処理、存在しない対象の適切なイメージの保持、こういった本質的に異なる役割が、なぜ脳のある限られた領域で合流する必要があるのか?これらに共通することとは何か?

 

 

第一部終了。長すぎるので分ける